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インフルエンザ

はじめに

 インフルエンザとは、インフルエンザウイルスによって引き起こされる急性の呼吸器感染症です。発熱、咳、のどの痛み、頭痛、倦怠感などの症状が現れます。

 もともとインフルエンザウイルスは水禽類(游禽類(ゆうきんるい、水面に浮かんで休息できる「カモ類」や「鵜(う)類」など)と渉禽類(しょうきんるい、水辺を餌場にしている渡り鳥で「シギ類」や「チドリ類」など)を合わせた水鳥全般を水禽類と呼びます)に感染するウイルスで、水禽類には病気を起こしません。ヒトが腸内に大腸菌がいても病気にならないのと一緒で、水禽類もインフルエンザと共生しています。

 そして長い年月をかけて、ブタやニワトリを経由して人間に対する感染能力を獲得したものが、現在ヒトの間で流行するインフルエンザウイルスになります。

 インフルエンザが初めて記録に現れるのは紀元前460年頃のヒポクラテスの記載と言われています。日本でも三代実録の862年の記載に「咳逆(しわぶき)」と言う名前で登場し、明月記の1233年の記載には「夷病(えびすやまい)」として紹介されています。江戸時代には「お駒風(城木屋お駒の浄瑠璃から)」、「谷風(力士の名前から)」、「お七風(八百屋お七の小唄から)」など流行ごとに世相を反映した名前で語り継がれてきました。

インフルエンザウイルスについて

 インフルエンザウイルスは直径80〜200nm(ナノメートル)のオルトミクソウイルス科に属するRNAウイルスです。ヒトに感染するインフルエンザウイルスはA型、B型、C型の3つで、A型とB型は毎年冬季(まれに春季〜夏季)に流行を繰り返し季節性インフルエンザと言われています。C型は季節によらず主に4歳以下の小児に感染します。

 インフルエンザウイルスによる感染者は、日本では毎年約1000万人いると言われています。その内2000年以降の死亡者数は毎年2千人弱で、超過死亡は1998年〜1999年に3万5千人を超えましたが、それ以降1万人を超えることはなく推移しています。

超過死亡とは

 WHO(世界保健機関)はインフルエンザの社会に与えるインパクトを正確に評価する指標として超過死亡という概念を提唱しました。[ Bull. Org. mond. Santo 1973, 49,219-233 Bull. Wld Hith Org]

 インフルエンザには様々な合併症があり、直接インフルエンザによって死亡しなくても、合併症で死亡する場合も多々あります。超過死亡と言うのは、もしインフルエンザの流行がなかった場合の死亡数に比べて、インフルエンザ流行時期の死亡数がどれだけ増えたかをインフルエンザによる社会的インパクトの指標とするものです。(ちなみに、2020年1月から2021年12月までの新型コロナウイルス感染症による死者数は1万8400人で、超過死亡数は11万1000人と推定されており、如何に新型コロナウイルス感染症の社会的インパクトが大きかったかが解ります。)

インフルエンザの症状

 潜伏期間は1〜3日で、急な発熱(38℃以上の高熱)、体幹痛、頭痛、疲労感(倦怠感)、食欲減退などの全身症状と咳、咽頭痛などの上部呼吸器症状を呈します。普通の所謂「かぜ症候群」と比べて、急に熱が出て、全身症状が強いことが特徴です。

 多くは自然治癒しますが、高齢者や乳幼児では合併症が起きやすいので注意が必要です。

インフルエンザの治療

 アメリカ疾病予防管理センター( Centers for Disease Control and Prevention、CDC )が推奨するインフルエンザ治療 [ Influenza Antiviral Medications: Summary for Clinicians ]を以下にご紹介します。

治療の原則

早期からの抗ウイルス薬による治療を行うメリット

  • 有症状期間を短縮し、合併症(肺炎、呼吸不全、小児の中耳炎など)のリスクを軽減
  • 入院患者の場合、成人では死亡率を減少し、小児では入院期間を短縮
  • 発症後48時間以内に治療を開始すると効果が最大
  • 下記の高リスクの方には、確定診断前でも治療開始を推奨

可能な限り早く抗ウイルス治療を開始することが推奨される状況

  • 2歳以下もしくは65歳以上の場合
  • 慢性疾患として肺、心、腎、肝、血液、代謝、神経疾患を持つ場合
  • 免疫抑制状態にある場合
  • 妊婦中もしくは出産後2週間以内の場合 
  • 19歳以下でアスピリン長期投与を受けている場合
  • 病的肥満(BMIが40以上)の場合
  • 長期療養施設等の入所者

外来患者の治療

生来健康な場合でも、48時間以内に開始できるならば抗ウイルス治療を考慮

使用が推奨される抗ウイルス薬は、経口タミフル、吸入リレンザ、静注ラピアクタなど

入院患者(重症例)の治療

48時間以内に開始できなくても、重症化や死亡率を下げる効果があるかも

重症もしくは致死的インフルエンザに対する抗ウイルス薬の使用法は未確立

  •  経口タミフルが推奨
  • タミフルが使用できない場合は、静注ラピアクタを考慮
  • 状態に応じて5日間以上の投与期間延長を検討
  • 状態に応じて倍量以上の投与を考慮

とされています。インフルエンザウイルスに対する抗ウイルス薬は、処方箋なしに薬局で入手することが出来ませんので、インフルエンザにかかった場合は早めに医療機関を受診しましょう。特に高齢者や上記の高リスクの方々は重症化しやすく入院が必要になることもあります。

予防接種について

インフルエンザワクチンは、

  • 前年流行の三種類(A型2種類、B型1種類)の混合
  • 12月中旬までに1回ないし2回接種
  • 効果は接種2週間後から約5ヶ月間
  • 発病を50%阻止し、重症化を80%阻止

と言われています。

予防

インフルエンザの予防には、以下のことに気をつけましょう。

インフルエンザワクチンを接種する
人混みを避ける
感染したヒトが触った直後のドアノブなどに触り、そのまま目、鼻、口に触るなどの行為を避けましょう
手洗いをこまめに行う
手洗いは、インフルエンザ感染を予防するのに最も効果的な方法です。手洗いは石鹸と流水で20秒以上行いましょう。
マスクを着用する
マスクを着用することで、飛沫感染を予防することができます。マスクは口と鼻を完全に覆うようにしましょう。
水分や栄養をしっかりと摂る
十分な休息をとる

インフルエンザの診断から登校や出勤を再開するまで

小児の場合

 学校保健安全法施行規則第19条において「インフルエンザ(特定鳥インフルエンザ及び新型インフルエンザ等感染症を除く。)にあつては、発症した後五日を経過し、かつ、解熱した後二日(幼児にあつては、三日)を経過するまで。」となっています。

成人の場合

 成人の場合は出勤再開に関して特に決まりはありません。医学的には、インフルエンザ感染発症後7日間はウイルス排泄量が多目と言われていますので、解熱してからも他人にうつさないよう咳エチケットなどに注意が必要です。