メインビジュアル

脂質異常症

脂質とは

 脂質は炭素、水素、酸素で構成される有機化合物です。水に溶けず、エーテル、クロロホルムなどの有機溶媒に溶けます。脂質は三大栄養素の1つであり、私たちの体にとって欠かせない栄養素ですが、摂りすぎると肥満や生活習慣病のリスクが高まります。厚生労働省の「日本人の食事摂取基準(2020年版)」では、1日の脂質摂取量の目安を、エネルギー比で20~30%(1日の総エネルギー量の約20~30%を脂質から摂取)としています。

脂質の分類

脂質には、大きく分けて以下の3つの種類があります。

単純脂質
脂肪酸とグリセリンの結合でできた脂質です。中性脂肪、ロウなどが含まれます。
複合脂質
脂肪酸、グリセリンに加えて、リン酸、糖類などの他の成分が結合した脂質です。リン脂質、糖脂質、リポタンパク質などが含まれます。
誘導脂質
脂肪酸から誘導された脂質です。コレステロール、ステロイドなどが含まれます。

脂質の機能

脂質の主な働きは、以下のとおりです。

エネルギー源
脂質は1gあたり9kcalのエネルギーを供給します。炭水化物やタンパク質の約2倍のエネルギー量です。
細胞膜の構成成分
脂質は細胞膜の主要な構成成分です。細胞膜は、細胞を外界から保護し、細胞内外の物質の輸送を担っています。
ホルモンの合成
脂質はホルモンの合成に必要です。
ビタミンの吸収
脂溶性ビタミン(ビタミンA、D、E、K)は脂質と一緒に摂取することで、より効率的に吸収されます。

脂質異常症とは

脂質異常症の定義は、

  1. LDLコレステロール(LDL-C)140mg/dL以上 高LDLコレステロール血症
  2. HDLコレステロール(HDL-C)40mg/dL未満 低HDLコレステロール血症
  3. 中性脂肪(トリグリセライド、TG)150mg/dL以上(空腹時採血) 高トリグリセライド血症
  4. Non-HDLコレステロール 170mg/dL以上 高non-HDLコレステロール血症

とされています。

 また成人(15歳以上)家族性高コレステロール血症(FH)の診断基準は、

  1. 高LDL-C血症(未治療時のLDL-C値180mg/dl以上)
  2. 腱黄色腫(手背、肘、膝等またはアキレス腱肥厚)あるいは皮膚結節性黄色腫
  3. FHあるいは早発性冠動脈疾患の家族歴(第一度近親者)

となっています。

 他にも様々な疾患や薬物の副作用が原因となって、2次的に脂質異常を来す場合があり(続発性脂質異常症)、脂質異常症の30〜40%を占めると言われています。

 代表的なものは、甲状腺機能低下症、ネフローゼ症候群、慢性腎臓病(CKD)、原発性胆汁性胆管炎(PBC)、閉塞性黄疸、糖尿病、肥満、クッシング症候群、褐色細胞腫、薬剤、アルコール多飲、喫煙などがあります。

 続発性(二次性)脂質異常症に対しては、原因の治療を優先します。(動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版より)

脂質異常症の症状

 脂質異常症には、ほとんど症状がありません。そのため、気づかずに進行してしまうことがあります。脂質異常症が進行すると、動脈硬化が進み、心筋梗塞や脳梗塞などの重大な病気を引き起こす可能性があります。

脂質異常症の治療

 脂質異常症の治療は、禁煙と減酒に加えて食事療法と運動療法を行います。食事療法では、コレステロールや中性脂肪の多い食品を控え、野菜や果物、食物繊維を多く摂るようにします。

 運動療法では、ウォーキングやジョギングなどの有酸素運動を週に3回以上、1日合計30分以上(可能であれば毎日)、または週に150分以上中強度以上の有酸素運動を行うようにします。

 食事療法や運動療法で改善が見られない場合や、動脈硬化のリスクが高い場合には、薬物療法が行われます。薬物療法では、コレステロールを下げる薬(スタチン系薬)や、中性脂肪を下げる薬(フィブラート系薬)が使用されます。

脂質管理の原則と目標値

(動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版より)

一次予防

まず生活習慣の改善を行った後、薬物療法の適用を考慮

低リスクの場合の目標値
LDL-C < 160、Non-HDL-C < 190、TG < 150、HDL-C ≧ 40
中リスクの場合の目標値
LDL-C < 140、Non-HDL-C < 170、TG < 150、HDL-C ≧ 40
高リスクの場合の目標値
LDL-C < 120、Non-HDL-C < 150、TG < 150、HDL-C ≧ 40
高リスクで糖尿病の末梢動脈性疾患、細小血管症(網膜症、腎症、神経障害)合併時、または喫煙ありの場合の目標値
LDL-C < 100、Non-HDL-C < 130、TG < 150、HDL-C ≧ 40

二次予防

生活習慣の是正とともに薬物治療を考慮

冠動脈疾患またはアテローム血栓性脳梗塞の既往がある場合の目標値
LDL-C < 100、Non-HDL-C < 130、TG < 150、HDL-C ≧ 40
中リスクの場合の目標値
LDL-C < 140、Non-HDL-C < 170、TG < 150、HDL-C ≧ 40
高リスクの場合の目標値
LDL-C < 120、Non-HDL-C < 150、TG < 150、HDL-C ≧ 40
高リスクで糖尿病の末梢動脈性疾患、細小血管症(網膜症、腎症、神経障害)合併時、または喫煙ありの場合の目標値
LDL-C < 100、Non-HDL-C < 130、TG < 150、HDL-C ≧ 40

脂質異常症の予防

脂質異常症の予防には、以下のことに気をつけましょう。

  1. 適正体重を維持する
  2. タバコを吸わない
  3. 適度な運動をする
  4. コレステロールや中性脂肪の多い食品を控える
  5. 野菜や果物、食物繊維を多く摂る

 高齢になると、脂質異常症のリスクが高まります。その理由は運動量が減りエネルギー消費が低下する、筋肉量が減少し基礎代謝が低下する、ホルモンバランスが変化するなどの要因です。高齢者は脂質異常症の検査を受け、必要に応じて治療を受けることが大切です。

まとめ

 急性心筋梗塞や狭心症、脳卒中と言った病気は日本人の主な死因ですが、平均寿命と健康寿命の差を大きくしている疾患でもあります。脂質異常症を治療して動脈硬化性疾患を予防することは、健康寿命を延ばすことにつながりますので、積極的に改善を目指しましょう。