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頭痛

はじめに

 片頭痛の最初の記載は、約4千年前の古代メソポタミア文明に遡る(Cephalalgia. 1995 Oct;15 Suppl 15:1-3.)と言われるほど頭痛は人類にとって一般的な症状です。世界の頭痛性疾患について調べた論文(J Headache Pain. 2022;23(1):34.)では、「世界の人々で顕在性頭痛性疾患を持つ人の割合が52.0%(約6割が女性)で、その内緊張型頭痛が26.0%、片頭痛が14.0%であった。」と報告してます。世界の人々の二人に一人が頭痛持ちとも考えられるような結果です。

 しかし、頭痛は目に見えるものではなく、他の人が共有できない「痛み」のため、本人は出勤や登校出来ないくらい辛くても、「頭が痛いくらいで休むな」と言った心ない言動がみられたり、社会的理解を得られない症状でもあります。

 頭痛で病院に行っても「頭部CTやMRIで異常がないからと鎮痛剤を処方されて帰宅」と言う時代もありましたが、2000年に片頭痛の特効薬としてスマトリプタン登場し、2021年には抗CGRP(カルシトニン遺伝子関連ペプチド)モノクローナル抗体薬および抗CGRP受容体モノクローナル抗体薬が発作予防薬として、また新規の経口セロトニン受容体刺激薬も登場するなど、片頭痛の治療は長足の進歩を遂げました。

 現在は、辛い頭痛があったら「取り敢えず鎮痛剤で様子を見る」から「迷わず頭痛外来を受診」に変わったと言えるでしょう。

頭痛の原因と分類

一次性頭痛

 他に原因となる疾患(脳腫瘍やかぜ症候群など)がなく、頭痛そのものが問題である頭痛性疾患の総称で

  • 片頭痛
  • 緊張型頭痛
  • 三叉神経・自律神経性頭痛(TACs)
  • その他の一次性頭痛

の4つに分類されます。

二次性頭痛

 他の疾患に併発する新規の頭痛で、その疾患が頭痛の原因と確定した場合に診断される頭痛です。それぞれ

  • 頭部外傷・傷害による頭痛
  • 頭頸部血管障害による頭痛
  • 非血管性頭蓋内疾患による頭痛
  • 物質またはその離脱による頭痛
  • 感染症による頭痛
  • ホメオスタシス障害による頭痛
  • 頭蓋骨、頸、眼、耳、鼻、副鼻腔、歯、口あるいはその他の顔面・頚部の構成組織の障害による頭痛または顔面痛
  • 精神疾患による頭痛

に分類されています。

有痛性脳神経ニューロパチー、他の顔面痛およびその他の頭痛

  • 有痛性脳神経ニューロパチー、他の顔面痛
  • その他の頭痛性疾患

これらには、三叉神経痛や後頭神経痛などと分類不能の頭痛が含まれます。

危険な頭痛のサイン

 二次性頭痛では、生命にかかわる疾患が頭痛の原因となっている場合があり、新規の頭痛が発症したときは注意が必要です。レッドフラグ、オレンジフラグを見落とさないようにSNNOOP10として以下の15項目が紹介されています(Neurology. 2019;92(3):134-144.)

  • S:Systemic symptoms including fever → 発熱を伴う全身症状(発熱のみの場合はオレンジフラグ)
  • N:Neoplasm in history → 悪性新生物の既往
  • N:Neurologic deficit or dysfunction → 神経脱落症状または機能不全(意識レベルの低下を含む)
  • O:Onset of headache is sudden or abrupt → 頭痛の発症が突然または唐突
  • O:Older age (after 50 years) → 50歳以降
  • P:Pattern change or recent onset of headache → 頭痛パターンの変化または最近新たに出現した頭痛
  • P:Positional headache  → 姿勢によって変化する頭痛
  • P:Precipitated by sneezing, coughing or exercise → くしゃみ、咳や運動で出現する頭痛
  • P:Papilledema → うっ血乳頭
  • P:Progressive headache and atypical presentations → 進行性の頭痛で非典型的な経過
  • P:Pregnancy or puerperium → 妊娠中または産褥期
  • P:Painful eye with autonomic feature → 自律神経症状を伴う眼痛
  • P:Posttraumatic onset of headache → 外傷後に発症した頭痛
  • P:Pathology of the immune system such as HIV → HIVなどの免疫異常の存在
  • P:Painkiller overuse or new drug at onset of headache → 鎮痛薬乱用もしくは新規薬剤使用後の頭痛

片頭痛

片頭痛の原因

三叉神経血管説
頭の中の血管に何らかの刺激(具体的に何かは解明されていません)が加わると血管が収縮して予兆や前兆(肩こり、生あくびなど)が出現し、三叉神経からCGRP(カルシトニン遺伝子関連ペプチド)が放出され片頭痛が起こると言う仮説が主流となっています。トリプタン製剤はCGRP放出を抑制して痛みを軽減しますが、CGRPが出きってから内服しても効果がないため、服薬のタイミングが大切になります。

片頭痛の症状と経過

 片頭痛は頭痛の経過と伴に様々な症状を呈することが知られています。

誘因
月経、ストレス、睡眠不足、寝過ぎ、人ごみ、炎天下、運動、コーヒーの飲み過ぎ、熟成されたチーズ、飲酒、臭い匂い、雨の降り始めなど
予兆期
頭痛が起きる約3日前から始まることがあり、少なくとも12時間前には頭痛を予測できると言われています。具体的には、倦怠感、気分の変化、食欲増進、首や肩のこり、生あくび、筋肉の圧痛、羞明感などが生じます。
前兆期
片頭痛の約30%に出現すると言われており、視界にまぶしい光やギザギザが見えたり(閃輝暗点)、視野の一部が欠損したりします。他にピンや針で刺すような痛みが移動したり、言葉が上手く話せないような症状が出ることもあります。これらの前兆は1時間程度続きます。
頭痛期
典型的な場合は片側性で脈を打つように痛みますが、両側性のこともあります。日常的な身体活動(階段の上り下りなど)で痛みが増し、吐き気や嘔吐することもあります。まぶしい光やうるさい音も気になります。タバコや香水の匂いも気になります。頭痛期は4時間から3日間程度まで続くことがあります。時間帯は、起床時あるいは目が覚めてから起きることが多いと言われています。
寛解期
眠気が起きます
回復期
痛みが落ち着いたあとにも、倦怠感、食欲低下、体の痛み、集中力の欠如、抑うつ症状などが続く場合があります。

治療

鎮痛剤
アセトアミノフェン、ロキソニンなど軽度から中等度の頭痛には効果があります。
トリプタン製剤
前兆期に服用しても効果はありません。頭痛期に入って、痛みが始まったら直ぐに服用することで高い効果があります。具体的には、じっとしていても痛みがわかる、体を動かすと痛みを感じる、お辞儀をすると痛みが増すなどを目安に服薬します。
新規経口セロトニン受容体刺激薬(ジタン系片頭痛治療薬)
頭痛が起きてから4時間以内に内服すれば効果を得られると言われています。脳のセロトニン受容体選択性が高いので、トリプタン製剤にみられる胸が苦しくなるなどの副作用が少なくなっています。
CGRP関連抗体薬
直近3ヶ月間に月平均4日以上片頭痛発作が出現し、非薬物療法と急性期治療を行っても日常生活に支障があり、既存の予防薬が使えない場合に処方されます。皮下注射であることと治療費が高いことが問題とされていますが、非常に効果のある治療です。

緊張型頭痛

 以前は緊張性頭痛、筋収縮性頭痛、ストレス頭痛などと呼ばれていた頭痛で、一次性頭痛で最も頻度の高い頭痛です。頭痛は数十分から数日間持続し、両側性のことが多く、圧迫感や締め付け感が主体です。治療は鎮痛剤が用いられます。予防には認知行動療法、理学療法、針治療などの非薬物療法と薬物療法では三環系抗うつ薬が用いられます。

群発頭痛

 群発頭痛は、三叉神経・自律神経性頭痛(TACs)の代表疾患です。20〜40歳代の男性に多く、頭痛が起きている期間のみ、アルコール、ヒスタミン、ニトログリセリンで頭痛が誘発されます。典型的な症状は、一側の眼周辺から側頭部に1〜2時間持続する激痛が連日、1〜2回/日、1〜2ヶ月起こります。頭痛発作が起きる期間を群発期と呼び、毎年同じ頃、同じ時間帯に起きることが多いと言われています。また、頭痛と同じ側に自律神経症状(流涙、鼻漏、結膜充血、鼻閉)を伴うことも特徴です。片頭痛の場合は暗い部屋でじっとしていることが多いのですが、群発頭痛の場合は落ち着かなく、歩き回ったり、体を前後に揺するなどの不穏行動が多くみられます。

 急性期の治療はスマトリプタンの皮下注射です。スマトリプタンが使えないときは高濃度酸素吸入で頭痛が治まります。

その他

 群発頭痛以外で三叉神経・自律神経性頭痛(TACs)に分類される頭痛として、発作性片頭痛、短時間持続性片側神経痛様頭痛発作、持続性片頭痛があります。症状は、必ず一側が痛く、痛い側の自律神経症状を伴い、落ち着きなさを伴なうこともあります。これらに共通するのは、鎮痛剤やトリプタン製剤を処方されても効果がないのに、インドメタシンが著効することです。

まとめ

 頭痛は、誰もが一度は経験するありふれた症状ですが、その種類や原因はさまざまです。頭痛がひどい場合や、他の症状を伴う場合は、すぐに医療機関を受診してください。